学校からの帰り道、高架下のテニスコートに一人の少女を見た テニスをする風ではなく、制服姿のまま・・・ 誰かを待っているのだろうか もうすぐ日が暮れ始める あまり気にも留めず家路へと急いだ 痛みに触れた時 (06.諦めるのは逃げる事) 「よし!1年はボールの片付けを頼む、他の生徒は解散!」 今日も練習を終え、俺は家路へと向かう 大石や菊丸たちは皆を誘って、ハンバーガーショップへ行くようだ 「手塚もたまには行かないか?」 「いや、やめておく。」 「えぇー!手塚も行こうよー!」 「結構だ。」 家では母が夕食の支度をして待っているし、帰りに寄り道をするのは、あまり好きではない いつもの道を一人歩いていると高架下のテニスコートに差し掛かった 昨日の少女だ 今日もまたテニスをするわけでもない、制服姿のまま一人コートの方を向いてただ立っているだけ いつもの俺なら見ず知らずの人間に話しかけたりしない 昨日の様に何もなかった様に通り過ぎる だがその時、その少女を救いたいと思った 話をしたわけでもない、ましてや助けてくれと言われたわけでもない 何故かは分からない、でも確かに思ったんだ この少女は自分を救ってくれるであろう誰かを待っているのだと 「ゴホン・・・ちょっといいか?」 「・・・!?・・・あ、はい。」 彼女は狐に抓まれた様な顔をして俺に答えた、どうやらいきなり声をかけたせいで驚かせてしまったらしい いきなり確信的な話をするのも分が悪い・・・しかし初めて会った人間と共通の話題と言っても・・・ テニスコート・・・テニス・・・これだ! 「君はテニスをするのか?」 「・・・いいえ今は。・・・青春学園中等部三年、手塚国光さん。」 「えっ?」 「テニスをする、もしくはしていた人間なら手塚さんを知らない人はいませんよ。」 「あ・・・あぁ、そうか・・・。」 自己紹介をするまでもない、彼女はどうやら俺のことを知っている様だ そして必然的にテニスに関する俺の経歴なども知っているのだろう 別に隠すつもりはないが、自分が知らない人間に自分のことを知られているというのは気分のいいものではない 俺が分かっている彼女に関することと言えば、制服から氷帝学園の生徒であること、そして昨日もここに居たということ そんな俺の心境を見透かしたかの様に彼女は自分のことを話し始めた 「私、氷帝学園中等部二年のです。こんなところで手塚さんにお会いするとは思いませんでした。 手塚さんは今、部活の帰りってとこですか?」 「あぁ、そうだが。」 「・・・。」 「・・・。」 彼女を救いたいと声をかけたのだが、彼女の平然とした態度にまるで影は見えない 思い過ごしだったのだろうか では、一人テニスコートを見つめて彼女は何をしていたのだろう・・・ 俺らしくもなく必要以上に彼女を気にした 思い過ごしならばそれでいい 「君・・・さん。俺が先程、君はテニスをするのか?と聞いた際、今はしていないという言い方をした。 と言う事は、以前はしていたのか?」 彼女は俺の顔を見て、それから少し俯いた やはり・・・テニスか・・・ 「・・・はい。以前・・・つい最近までテニス部にも所属していました。」 「二年なら引退には早い。何か理由があってのことだろう?」 「・・・したくても出来ないんです・・・腕が上がらないんです・・・ボールが打てないんです。」 「・・・腕を痛めたのか。テニスをする者で腕を痛める者は多い。もちろん治療はしたのだろう?」 「・・・はい。痛めたのは半年以上前ですし、それから二ヶ月で無事完治しました・・・。確かに完治しているんです・・・でも・・・。」 「・・・医者は何と・・・?」 「・・・イップス・・・」 やはりそうか イップスとは神経に影響する心理的症状でプレッシャーのため極度に緊張することを言う それが原因で震えや硬直を起こしたり、思うようなプレイが出来なくなる どうやら彼女は氷帝学園の女子テニス部において、かなりの重要な位置にいた人間らしい 二年・・・準レギュラーか・・・もしくは正レギュラー 「氷帝学園のテニス部と言えば、あの跡部先輩が率いる男子テニス部の方ばかり重要視されがちですが、女子テニス部も結構強いんですよ。 昨年度は一回戦敗退ではありましたが、全国大会に出場もしています。・・・実は私もレギュラーとして出場したんです。」 これは驚いた、昨年と言えば彼女は一年でレギュラーだったことになる 高学年の部員からの圧力もあっただろう そんな中で彼女は腕を痛めて休部、復帰はしたものの以前より増したプレッシャーの中イップスに陥ったという所か 「こんな弱い精神力ではイップスを克服出来たとしても、もう誰もレギュラーとは認めてくれません。 カウンセリング、メンタルトレーニングも受けました。ですが、どうしても肝心な時には腕が上がらないのです。 もう私は・・・出来ないんです。」 彼女の目からは涙がこぼれ落ちていた 甘えることすら許されなくて、こんな学校から離れた、人目の少ない高架下のテニスコートに来たのだろう もう一度テニスと向かい合いたくて、誰かに助けを求めて・・・ 「辛かったんだな。」 俺がそう言うと、彼女は俺にしがみつき声を出して泣いた 俺に出来ることなら何でもしてやろう、だから決して諦めるな すっかり暗くなった高架下のテニスコートで俺達は誓った そして数ヶ月後の関東大会 氷帝学園中等部、女子テニス部は優勝した 接戦を期した決勝戦、シングルス1で優勝を決めたのは・・・・・・彼女だった -Fin- *あとがき* その後ふたりはどうなったのでしょうか? 管理人はテニス経験アリです。 ちなみに大会ではいつも一回戦負けでしたww テニスしてると利腕だけ非常に太くなります。 それでもテニスは楽しいですよ♪ (07.06.23) photo by NOION/music by Litty