もうすぐ取り壊される旧校舎の屋上
誰も知らない
ボクだけの秘密の隠れ家だった・・・
ボクたちの居場所 (02.ボクと彼女は異質な存在)
ときどき胸が苦しくなって逃げ出したくなることがある
教室での何気ない会話や笑い声が耳につく
一体皆は何がそんなに楽しいのだろうか
ボクには理解できないよ・・・
ボクという人間は少し皆と違うのかもしれない
そんな時、決まって隠れ家へと向かう
今日も朝から教室では笑い声が飛び交い、他愛のない会話が繰り広げられ
ボクは居心地の悪さに思わず溜め息を吐く
「不二〜おはよ〜ん♪」
「やぁ英二、おはよう」
勘弁してくれと思いながらも英二とあいさつを交わす
いつからだろうか
嫌いなわけじゃない
ただ皆とボクの価値観が違うだけ
なんだか少し寂しいけれどボクはボクだから
昼休み一人隠れ家へと向かう
来月にも取り壊されることが決まっている旧校舎
非常階段を上ればガラクタがたくさん置いてある屋上へと続く
その一角にボクは身を置き、皆のいる新しい校舎を眺めるのが好きだった
今日もいつものように屋上へ向かうと、一人の女子生徒がいた
少し茶色がかった肩より少し長めの髪を風になびかせながら何をしているわけでもなく、ただじっと立っている
予想もしない来訪者に少し驚いたけれど、この場所を共有する人間がいたことが何だか嬉しかった
その時、彼女はボクの視線に気が付き振り向いた
どちらかというと少し大人しい雰囲気の、色白の綺麗な子だった
切れ長の目はじっとボクを見据えて、その先にある瞳はどこか寂しげで・・・
「・・・不二先輩」
彼女は驚いた風でもなくボクの名前を無機質に呼んだ
「どうしてボクの名前を?」
「いくら青春学園広しと言えどテニス部の天才、不二周助を知らない生徒はいませんよ」
顔色ひとつ変えずにそう告げると、寂しげな瞳はボクからそらされた
ここから去る様子もなく、ただじっと立ち尽くしたまま・・・
彼女を不思議に思ったが、あまり気に留めずボクはボクでいつもの場所で時間を過ごすことにした
優しい風に吹かれながら皆のいる校舎を見ていた
ここが取り壊されたらボクは何処へ行けばいいのかな・・・
心配をよそに、雨上がりの空は青く澄み渡り、暖かな日差しは春の訪れを告げていた
「不二先輩」
先程の女子生徒が声をかけた
「先輩は、どうして毎日ここへ来て、そうやって校舎を眺めているんですか?」
彼女から発せられた思いもよらない質問にボクは驚いた
―――まるで彼女はボクのことを毎日見ていた・・・いや・・・そうなのだろう
「・・・どうしてだと思う?」
他人の好奇心に付き合うつもりはないのに、言葉はおもむろに会話を即した
「・・・」
彼女はボクをじっと見つめるだけで、答えなかった
その瞬間、ボクは彼女の瞳の奥に隠れた闇に気付いた・・・あぁ、そうか
「・・・きっとキミと同じ理由だよ」
彼女は満足そうに笑みを浮かべてボクの隣に腰掛けた
それから彼女は毎日ここへ顔を出すようになり
ボクたちは、ひとつひとつお互いのことを知っていった
彼女は一つ下の二年生で、名前は
ボクはあまり他人に興味を持つタイプでない為、それまで全く彼女を知らなかったし
彼女もまた、ボクのことをあまり知っている風ではなかった
毎日訪れる旧校舎の屋上
現実から逃げる為に訪れていた場所なのに、気が付けば彼女に会う為に訪れるようになっていた
彼女の瞳の奥にひっそりと潜む闇に気が付いたあの時から、ボクたちは世界で唯一の理解者となったんだ・・・
旧校舎が取り壊される日の前日
ボクたちは屋上にいた
ここがボクたちの唯一の居場所に違いない
明日からボクたちは何処へ行けば良いのだろうか
学校という共同生活の場で、たった二つの異質な存在
・・・キミとボク・・・
「不二先輩・・・」
「・・・なんだい?」
「行き場を失くした鳥は、大空を彷徨い続け一体何処に辿り着くのでしょうか?」
彼女の言葉がとても悲しく聞こえ、ボクは震える彼女の肩を抱き寄せた
そう・・・ボクたちは行き場を失くした鳥
片翼を失ってしまえば大空を彷徨うことさえ出来なくなる
人と何かを共有し、共に過ごす喜びを知ってしまえば一人でいる寂しさには耐えきれなくなり
大切に想えば想う程、其を失う恐怖に怯える
ボクにとって彼女は、なくてはならない存在
世界で唯一の理解者
―――大切なボクの片翼
翌日、予定どおり旧校舎は取り壊された
いつもと変わらない賑やかな教室で、ボクは深い溜め息を吐く
息が詰まり、どうにかなってしまいそうだ
行く宛もなく飛び出した教室の外には彼女がいた
彼女もまた苦しみを堪えてボクの処へ・・・
「」
「不二先輩・・・」
「ねぇ・・・行き場を失くした鳥は、大空を彷徨い続け、やがて疲れて飛べなくなってしまったんだ
だけど諦めなかった・・・翼のある限り、いつかまた羽ばたこうと・・・ボクにはキミがいるし、キミにはボクがいる・・・
もうボクたちは一人じゃないから」
そう言って涙ぐむ彼女を抱きしめ、そっと唇に触れた
彼女はボクの腕の中で小さくうなずいた
二つの異質な存在は互いが互いの居場所となることで身を潜める
-Fin-
*あとがき*
なんだか意味不明な話に(逝)
黒不二で書いたつもりなんですが、、、違う?
(07.06.18)
photo by 空色地図/music by FINAL STAGE